『寛解の連続』Introduction
熱狂的支持を集め、突如活動を休止したラッパー、小林勝行 隔離病棟での生活を経て、日常に復帰する姿を描いたドキュメンタリー
兵庫県神戸市出身のラッパー、小林勝行。2011 年に発表した1st アルバム『神戸薔薇尻』で日本の地方都市に生きるアウトローの半生を生々しく描き、一部批評家やリスナーから熱狂的な支持を集めた彼は、その後の活躍を期待されていた矢先、活動を休止する。それは自身の抱えていた躁うつ病の症状が悪化した為だった。医者から「一生完治することがない病い」と診断された彼は、隔離病棟での生活を経て、 ようやく日常に復帰する。
本作は、退院した後の小林が、ラッパーとして復活するまでの一部始終を親密な目線で描いていく。隔離病棟での記憶、介護の仕事について、幼いころから信仰する宗教のこと。そして、自室にこもり真剣に自らと向き合いリリックを書く姿、それを楽曲としてレコーディングする姿...。感情を露わにさらけ出すその表情や生身の言葉は、活き活きとした生の肯定感に溢れている。
「寛解」とは、病気の症状や徴候が一時的に軽快した状態、あるいは見かけ上、消滅して正常な機能に戻った状態を指す。それを続けて生きていくこと。『寛解の連続』と名付けられたこの映画は、まさにそれでも生き続ける小林の生の記録そのものだ。
制作に 6 年の歳月をかけ、不世出のラッパー、小林勝行の人生と創作に焦点を合わせたのは、今作が長編初監督作となる光永惇。新しいアルバムの制作ドキュメンタリーを撮ることから企画は出発。神戸に向かい、小林にカメラを向けるなかで、いつしか監督自身も神戸に居を移し、生活を共にするようになる。小林が運転する軽自動車で、神戸の街を巡りながら語られる小林勝行という一人のラッパーの記憶は、いつしか神戸という街の記憶にオーバーラップし、絶望も希望も真剣に語るその表情は、鏡のように 観る者を映し出していく―。
本作の完成と併せて、2017 年に 2nd アルバム『かっつん』が発表された。これはその傑作アルバムのメ イキングドキュメンタリーであると同時に、いまも地方都市のそこかしこで生きているであろう、名もない誰かのドキュメンタリーでもある。
『寛解の連続』予告編
『寛解の連続』Twitter
小林勝行 Profile
小林勝行 (こばやし・かつゆき)
1981年生まれ、兵庫県神戸市出身のラッパー。活動初期から発表曲自体は少ないながらも、ハードかつ叙情的な関西弁のラップで日本のヒップホップシーンに爆発的なインパクトを残してきた。
2011年に満を持して1stアルバム『神戸薔薇尻』を発表し、特にアルバム一曲目の、8分58秒に及ぶ大作”108bars”が大きな話題となる。犯罪や狂気の渦中にありつつも、仄見える希望を捨てきれない若き詩人の咆哮は、日本のヒップホップが生んだ叙事詩として高く評価された。
2017年に待望の2ndアルバム『かっつん』を発表する。自主制作、自主流通のこのアルバムは、精神病院入院体験を楽しげに歌う“from隔離室”や、自身のボールペンを擬人化し、どんな逆境でも作詞を続けていくことを誓う”オレヲダキシメロ”などを収録し、これまでよりも更にパーソナルな内容となっている。
2021年現在、3rdアルバム制作中。
-小林勝行2ndアルバム『かっつん』コメント-
傷みを癒してくれる音楽はたくさんある。でも、治りかかった傷のかさぶたを剥がして、傷みを忘れないようにしてくれる音楽はなかなかない。小林勝行の声とリリックのような。
都築響一(編集者/『ヒップホップの詩人たち』著者)
監督 Profile
光永惇 (みつなが・じゅん) 1991年生、東京都板橋区出身。 大学在学中より低予算映画の助監督、脚本助手などを経験する。その後ミュージックビデオ制作などを経て、初の長編作品『寛解の連続』を発表する。
-監督コメント-
この『寛解の連続』という映画の大きなテーマは「病」です。 これ以上ないほど人間の、社会の「病」が可視化されている現在、主人公の小林勝行さんの言葉、音楽、 生き方は、多くの人にとって考えさせられる部分があると思います。そしてそれは、これまでずっと「病」 に苦しみつづけてきた人々のことを、力強く励ますものだと思っています。私はこの映画を、そんな「病」 と共に生きる人々に捧げたいと思っています。
『寛解の連続』監督 光永惇
クレジット
撮影・編集・監督:光永惇 出演:小林勝行 市和浩 音響:小林宏信 題字:SOLID 製作:Sardinehead Pictures 配給・宣伝:ブライトホース・フィルム
2019/日本/112 分/DCP/カラー/1:16/ステレオ ©2019sardineheadpictures